discotortion interview 2014

Tatsuya Hatta

ph_ht_1

これがゴールだと思ってたけど、
実はやっとスタートラインに立てたのかも

 ハヤシと同様にdiscotortionのメンバーとは200MPH時代から縁が深いハッタ。ライブではよき友人として、また純粋にいちファンとしてもdiscotortionに加勢できる喜びに満ちた姿が印象的。期せずして連続でツイン・ドラムのバンドのベーシストを務めることとなったあたりから聞いてみた。

discotortionを手伝うようになったきっかけは?

ハッタ…チカちゃんが抜けたあとにdiscotortionが札幌でライブする予定があって「そのライブ遊びに行くよ」て言ったら、カズくんから「来るならベース弾いてよ」て(笑)200MPHのあとにバンドをするつもりはなかったから一瞬考えたんだけど、断る理由もないな、と。「やらせていただきます」という感じで、セカンド・アルバム『空谷ノ歪音』をコピーして。あと“Stranger”もやったかな?向こうでライブ前日にスタジオ入って改めてメンバーみんなのオッケーが出たんで、そこからサポート人生のはじまり(笑)と言ってもまだ6本しかやってないね。最初の1本以外はハヤシくんも一緒。そこからズルズルと続けさせてもらってます。もちろんできるかどうかは別として、憧れてたバンドだったし、大好きなバンドだったから。

200MPHとdiscotortion、どちらもツイン・ドラムだけど比べてみてどうですか?ハッタくんのポジションは観ている側からしても違う気がするけど。

ハッタ…気付いたらツイン・ドラムしかやってないよね(笑)たぶんツイン・ドラムじゃないと満足できないカラダになってるような気もする。一度味わっちゃうとドラム1台じゃさびしいかも。200MPHはツイン・ドラムでも2人のドラマーが別々のことをやろうとしていたね。

たしかに200MPHでは違うグルーヴを絡めたり、元々4人のときもメンバー全員が違うベクトルで音を発していたところがあったからツイン・ドラムになってからも広がりを意識してたような気がする。

ハッタ…目指していたところは別々のドラムで面白いことができればなぁ、て感じだった。discotortionももちろんそういう部分があるけれど、どちらかというとパワーや音圧。だから俺がベースやるときも自分が何をやればいいかよくわからなかったんだよね。ベース弾かないでカズくんどうするの?て聞いたら「バリトンやるから」て(笑)どうなるんだろうなぁと思ってた。チカちゃんがいなくて1個抜けちゃったあとを埋めるのに俺もベースしかできないから…いま思えば俺もバリトンちょっと挑戦してみるとか、やればよかったのかな、とか思ったり(笑)

ツイン・バリトン(笑)頭悪そうだけどdiscotortionっぽい(笑)無駄にシンメトリーになるし!

ハッタ…わりと自分がバンドを引っ張っていかなくてもいいから。あと違いは、200MPHはわりと隙間を作ろうとしてけどdiscotortionはやっぱり音の塊だよね。コモリくんもナオちゃんも合わせやすいです。

曲作りには関われてない感じですか?ライブのリハーサルのときにちょっとジャムってみて新しいリフを一緒に作ったりする機会はなかった?

ハッタ…やりたいねと言ってくれてるんだけど、なかなか時間がとれなくて。今回のアルバムは札幌にいる4人がプリプロしたのを随時送ってくれて、それに俺がちょこちょこ合わせて入れたものを送り返して反応を伺う、という感じだった。曲の構成もプリプロのときと同じ。いろいろと考えてみたけど、突飛なことは合わなかったかなぁ?「もっとブッ壊して!」ってすごく求められたけどね。自分の色を出しちゃうのも良くないんじゃないかとも思って、探り探り。チカちゃんとロブさんをみてきたし、そこにヘルプの自分が色を出すっつうのも。まだそこは自分でどうしていいのかは何となく決まっていないというか…

できあがった作品を聴いて「こんな風になったんだ」とか思うようなことはなかった?ベースのパートの聴こえ方が劇的に変わることはあんまりないだろうけど。

ハッタ…うん、「こんな曲になったんだ」というのはないね。全部良くなってた。ミックス・ダウンで聴いたときは少し物足りなさがあったのが、マスタリングでぐわっと化けたから。ジュンさんのミックスがどうとかじゃなくてね!

でもそれは他の人も言ってました。マスタリングを含めての制作だったんだね、と。ユウさんの歌もぐっと前面に出て。

ハッタ…ナオちゃんのドラム、コモリくんのドラム、カズくんのバリトンと全部好きだけど、俺、ユウさんの歌のファンなんだよね。ユウさんの歌はもっと聴こえても良かったかなと思ってる。

俺も好きです。

ハッタ…ユウさんの歌のすごいファン。ウメ(200MPHのウメダ)の歌、まぁウメの場合は歌じゃねぇんだけど、ウメの言葉と同じように好きなんだよね。

歌詞カードもあるからいままで以上に歌が入ってくるし。

ハッタ…この前もリハで「ノックするドアをロックせよ!」て1行で、言葉を入れ替えてみても意味がまったく変わって面白いかもね、なんて言ってたんだけど、そういう言葉遊び的な要素。やっぱりロブさんの「鬱っている、ウツっている」と同じようなライン、あれはもっとみんな気付いて欲しいかな。discotortionのライブをほめてくれるのも嬉しいけど、ユウさんの歌のすごさに気付いてね、とはすごい思う。

たしかにユウさんがカッコよぎてもはや他のヴォーカルはちょっと想像できないよね。

ハッタ…だね。その中で俺はたまに顔を出す親戚のオジさんみたいなスタンスでいいのかな、と思ってる(笑)本当はもっと責任をもって参加しなきゃいけないんだろうけど、無責任な位置でかき回すだけかき回して帰る、みたいな。もっと北海道にも行きたいんだけどね。そうすればもっといろんなところを作り込める気もするし。

レコーディングで苦労したことなどありますか?2回、札幌に行ったんだよね?

ハッタ…素材としてベースを全部ラインで録って、どういう風に使ってくれてもいいですよ、と。札幌に行って、もしもそこでうまくいかなかったら東京で入れ直してもいいかなという心づもりでいたから。“沙”でいきなりベースだけで何か入れて、て言われて急遽フレーズを考えたのは困ったかな。

ハヤシくんと一緒にプレイする感触はどうですか?懐かしい?

ハッタ…別に(笑)200MPHのメンバーはみんな家族みたいなものだから。でも、200MPHにいたときとは全然違うけどね。ハヤシくんもまだ試行錯誤中なんじゃないかな、とは思うかな。こっちは毎回初めて聴くフレーズばっかりて感じで(笑)

そうやってその場でもできちゃうとこがすごいよね。

ハッタ…ね(笑)あと、あのバリトンも良かった。組んでみたものの使いようがないというか、いろんな人に弾いてもらって、自分も含めてちゃんと使える人がいなくて。ベーシストが使っちゃうとベースみたいに弾こうとして低音がもの足りなくて、ギタリストが使おうとすると音がでかいし、歪まないし、粒が立ちすぎてベースとぶつかっちゃう。カズくんうまく使ったね。さすがだよ。

たしかにうるさい音楽というか、ヘヴィー系では使いづらいというか、イメージできない気がする。

ハッタ…そこを関係無く使っちゃってさすがだなぁと。なんかこの前も話してたけど、あれは粒が残るというか…

自分が買ったGRETSCHのバリトンはもっとマイルドというか、グルーヴィーな音だけど、テレキャス・バリトンの方はブライトで音がきらびやかだ、と言ってたね。

ハッタ…指板も関係あるのかな?あとはバー・タイプのピックアップを付けてあげればもっと振り幅の広い弦の音でも拾ってくれるかもしれないね。

今回のレコーディングは何を使ったの?

ハッタ…レコーディングはリッケン(RICKENBACKER)とプレベ。ほとんどリッケンだったな。予想以上にリッケンの音が合った。しっかりと芯のある、音として存在感あるから、試しにやってみたら最初は少し違和感があったけどやっていくうちに「イイじゃん」てなって。

でもライブだと恥ずかしい?

ハッタ…いやいや、リッケンでやってよと言われてて、そのつもりでいたんだけど念のために持ってきてもらったMUSTANGをリハで使ってみたらなんかそっちの方が馴染んじゃった(笑)やっぱdiscotortionてこっちだよね、て。原点と言えば原点だから。

あのMUSTANGもコモリくんがCOWPERS時代にサブで使ってたものだよね。何気にあれもex-COWPERSでメンバーみたいなものだからね。

ハッタ…ね。ボディは黒く塗り替えてあるけど(笑)

今回のアルバムは従来のリフ中心のdiscotortion的なサウンドからかなり変わって、COWPERSやROCKETFROMTHECRYPT的なコード進行で泣かせる曲も出てきたよね。それこそ最後の曲なんてすごいじゃない?

ハッタ…あれは、はじめはボツ曲って言ってた。ほとんどベース入ってないのよね。

その話も聞きました。実はハッタくんがいろんな裏メロを入れたバージョンも存在すると。でもそのベースを全部カットしたんだよね。

ハッタ…でもそれは全然構わないんだよ。好きにしてくれ、という話だから。そこにジュンさんがアコギ入れてくれたおかげでオッケーになったという(笑)

曲自体もすごいけど、今回その曲にまつわるエピソードをいろいろ聞いてさらにすごいなぁと思った。

ハッタ…今回のアルバムもすごくいい作品。参加できて嬉しい。制作やリリースも自分達でやって、自分達のペースでできたのも良かったのかな?これがゴールだと思ってたけど、実はやっとスタートラインに立てたのかもね。ライブだって毎回毎回うまくいくわけじゃないだろうし。

そんなこともないはないと思うけど。たぶん、いまのメンバーだとやってる側は細かいところで気になることがあったとしても、よっぽど演奏が噛み合ないとか大きなアクシデントがないかぎりはお客さんの方は「今日のライブはいまいちだった」とかわからないんじゃないかな。

ハッタ…音がうるさすぎて(笑)?でも音の大きいドラムはやっぱり好きだなぁ、コモリくんもナオちゃんも音デカイし。コモリくんはColorMeBloodRedでもバリバリ叩いているから安定感バツグン。ナオちゃんもL!EFでも頑張ってるんだろうね。ノリがひとまわりふたまわりデカくなってて「俺だけだな、進歩してないのは」て練習のときに思ってた。だから足を引っ張らない程度にできればいいかなといつも思ってて。

しかし、メンバーが本当は一度も一緒に合わせて演奏していないのにあのアルバムができあがっちゃうてのがすごいよね。たぶんこのインタビューを読んで頭を抱える人も出てくるんじゃないかな、と思うけど。

ハッタ…形になったのはすごいよね。

バンドにはいろんな方法があって、みっちりスタジオに入ってバンドを作り上げてる人達もすごいと思うけどね。でもそうじゃないやり方もあるんだな、て。

ハッタ…アルバムを作りはじめる時にカズくんが言ってたのが、今回はいかに打ち合わせをしないで作品を作っていけるかな、てことだった。たとえば音源をもらったときに「この曲はどんなイメージ?」「どんな風に弾いて欲しいの?」と聞くと「いや、言葉で説明するんじゃなくて音をいきなりもらってどんなものが出てくるのかを見たいんだ」て言われた。言葉じゃなくて音でディスカッションというか、絡みあいみたいなのを求められて、ずっと「もっとやっていいんだよ、もっとやって!」て感じ(笑)家でPCに向かってやるのも結構新鮮だったかな。有るベースを全部試して楽器の音やフレーズも細かくつめることができた気がする。おかげで自分が持ってるベースのラインの音色を再確認できたし。

レコーディングではアンプを鳴らさないの?

ハッタ…うん、全部ライン。200MPHのレコーディングのときもアンプは鳴らしてない。ツイン・ドラムはレコーディングのときただでさえ音数が多いからミキシングを楽にしてあげるなら、ベースはシンプルに入れた方がいいかなと思っててラインだけにしてある。ラインでリッチに録れていればどうにでもなる!と自信もあるので。ジュンさんには後からリアンプするなり、何なり好きにやって下さい、と。あとね、カズくんがユウさんに言ってたんだよ。「アルバムは自分で聴くために作るんだよ」て。「誰かに聴かせるのももちろんあるけど、一番はそれだよ」「自分で聴くために作るんだよ、自分で」てさ。だからパッケージも含めて自分が欲しいと思うものを一生懸命に作るんだろうなって思った。それがエネルギー源なんだ、てね。

普通は「自分を表現するため」とか他人や周りに働きかけてこその表現だ、ともっともらしく言ってしまうところだけど「自分で聴くために」ていうのは何周かしたピュアさだね。

ハッタ…自分の中にいままでその考え方はあまりなかったから「なるほどなぁ」と思った。自分の作品を聴くことはあっても、「聴くために作る」ことなんてなかったからさ。

conclusion

 実際にインタビューも一番最後にやらせてもらったハッタからカズトモが「アルバムは自分で聴くために作るんだよ」と言っていたことを聞いてこのインタビュー企画の締め、あるいは決めのフレーズはもうこれしかない!と心臓を打ち抜かれる思いだった。そしてアルバムのアートワークからTシャツまで、音以外のプロダクツ面でも徹底的に楽しんで、こだわりまくっているカズトモの原点がそこにあることを改めて実感した。いまとなってはバンドでメシを食っていくわけでもなく、シーンや音楽業界の狂騒から離れた場所で決して活発とはいえないペースでバンドを続けている理由も純粋にそこなのだろう。

ph_ht_2

index

GO2TOP