discotortion interview 2014

Tetsuya Hayashi

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音が塊になったらやっぱりカズトモ以外の何ものでもない

 颱風一家と200MPHのオリジナル・メンバーで現在はquizkidでプレイしつつ、即興演奏やアヴァンギャルドな方面でも積極的に活動を続けるギタリストのハヤシ。今回の作品に登場したdiscotortionの新たな一面に従来のリフとはまた違う「コード進行」による響きがあるが、その鍵を握っていると思われていたハヤシの口からは意外な言葉が返ってきた。

ギターの先生はいまも習っているの?

ハヤシ…うん、習ってるというか…

その人はジャズの人?

ハヤシ…そう、ジャズとブラジル音楽の人。

ジャズが習いたかったの?それともその人に惚れ込んで弟子入りした感じ?

ハヤシ…両方。まずはその人のことが大好きで、教わる窓口があることを知って、習うというか、とにかくコミュニケーションがとれるなら行ってみたいと思ったのがきっかけ。

それは200MPHにいた頃の話?

ハヤシ…いや、200MPHが終わってからだね。レッスンを受けるようになって今で2年経ってないくらい。

200MPHのあとにインプロ系のセッションを色々とやるようになってからレッスンを受けはじめたわけね。では違うジャンルのいろんな人とのセッションやそういったレッスンを経て、discotortionや最近はじめたAMBERFOURといった、ロックじゃないけど古巣とも言えるようなオルタナティヴなうるさいバンドにまた戻ってみて感触が変わった気がする?

ハヤシ…いや、何て答えたらいいのか解らないけど、自分では「何処行きたいんだろう?」てのは本当のところはある(笑)

いや、人に教わったり、違う畑の人たちともセッションしてみたりした後に曲がかっちり決まっているロックなフォーマットに戻ってみると「うわぁ、前と全然違うフレーズが見えてくるぜ」といったようなことがないのかな、と。

ハヤシ…全然ないね(笑)バンドは単純に楽しいという感覚だけでやっちゃってるところが大きくて、理想としては自分の音楽的な軸はああいった即興というか、アヴァンギャルドな表現のところに重きを置きたがっている感じです。

その場かぎりの瞬間で音を生み出す行為が楽しい?それとも即興から生まれる作品を聴くことが一番好き?

ハヤシ…行為としてはもちろん楽しい。でも自分の演奏はヘタクソだし聴きかえすことはあまりない。他の人のだと、あれ系の音源はライブ・レコーディングが多いから、自分がその場に居られなかった追体験として聴けるからやっぱり面白いと思う。でもやっぱりその場所で、壁の材質とか、空間の広さみたいな条件も含めて聴く方が圧倒的に面白い。例えば俺、ずっと管楽器の倍音ドローンみたいなの今イチわかってなかったんだけど、その元祖バージョンの生演奏に初めて触れたときショックを受けて、またひとつ音を見る角度が変わったりとか、ほんとに興味は尽きない。

そうね。ああいった演奏はそれこそロック・コンサートやDJイベントで大きなスピーカーからの振動を感じながら体験する音楽に匹敵するものがあるもんね。

ハヤシ…そう、体験として匹敵する。環境が全然違うのに。

discotortionは前作のアルバムにも多数のゲストを迎えてたけど、そのときはハヤシくんには声はかからなかったの?

ハヤシ…俺は特になかったね。

では、やっぱりチカちゃんが抜けてからの、どうしようかという中で声がかかった感じ?

ハヤシ…いや、それもまた違う。ライブに行って何度か弾いたじゃん?だからそこから自然な感じで。自分が行かないときはハッタさんが行ったりして、カワリバンコにやってたらそのうちやっぱり録音するという風に進んで。呼んでもらえるのは素直に嬉しい。長いつきあいだし。

今回は曲の元ネタが送られてきて、こっちでギターを重ねて送り返して、という感じで作業していたの?

ハヤシ…うん、その方式。だらしないから入れて送り返すのは結局1回しかやってないけどね(笑)

曲はあのアルバムに入っているので全部?それとも他にもまだあった?

ハヤシ…ほぼあれで全部だった気がする。作りかけの状態のものとか、プリプロまで行っていないものもあって、そういう段階のものでもすごくカッコいいなと思ってたけど。3曲目(”泄襍”)とか感じがちょっと違うじゃん?「あ、こういうのも入るのか」なんて思ったりしてね。

discotortionといえば独特の遅めのシンコペーションでのリフで攻めるイメージだったのが、今回のアルバムではCOWPERSやROCKETFROMTHECRYPTを思わせるコード進行で聴かせる曲もいくつか出てきていましたが、この辺の変化の要因は何だったと思います?

ハヤシ…曲の源はカズトモで、そこからみんなで作っていってるはずなのに、音が塊になったらやっぱりこれはカズトモ以外の何ものでもない、カズトモが作ったんだなという感じにすごく聴こえて。前のアルバムと比べて違うと感じるところはあるの?

やっぱりその曲と最後の曲の泣かせる路線とか、あとはリズムの面でもストレートで速めのビートが多くなっているように感じるかな。それこそスタート地点の最初のdiscotortionとはまったく違う地点まで到達してる。あとは歌詞カードが付いているおかげでユウさんの歌ももっとリスナーに刺さってるんじゃないかなと思う。ギターのパートを作るというか、考えるのは難しかった?

ハヤシ…難しくないんだけど、いや、難しいのかな…そう感じてはいないんだけど、「これは要らない」なんて思われるようなパートは作らないように心がけてた。自分の感覚だけで勝手にやればいいとは思えなかったよ。とはいえ、結果的には自分の感覚でしか弾けないんだけど(笑)あとは札幌で録ることになって、レコーディングの前の日にカズトモの家で酒飲みながら話して、そのときの話をやや参考にして。本当にもう一日でバーっと録っちゃったから、完成品はどうなるのかなぁと思ったけどジュンさんとカズトモで見事にまとめてくれたね。録ったトラックの数がハンパじゃないからジュンさんは相当大変だったと思うけど。時間がないから次から次へとバンバン録っていって、普通ならどのトラックを残すのか、殺すのか、みんなで決めていくものだけど、それを決めないまま帰ってきちゃったから。

レコーディングはハッタさんも同じ日に一緒に作業したのよね?

ハヤシ…そう。ハッタさんは先に一度向こうで3、4曲分は録っていたけど、残りの曲と洗い直しの部分を俺の作業の合間にうまく合わせてやってくれてた。しかも作業はプレイバックをスピーカーで聴かずにヘッドホンだけでやったんだよ(笑)

それならなおさらできあがったものを聴いたときは驚きも多かったろうね。というか、ライブで演奏するにあたって改めて自分で曲を耳コピする感覚なの?

ハヤシ…そうだね。「ええと…何弾いたんだっけな?」という感じだから。quizkidも今でこそ覚えたけど、昔はそんな感じだったよ。「あれ、何弾くんだっけ?」って。

アルバム発売後に完成型を初めて全員で演奏してみて、もっとここを変えたいとか、こんなことをしてみたいといったことは出てきました?

ハヤシ…それは、出て…こないね(笑)でも”淨”とか”拿ム”のイントロみたいなモヤーっとしたパートの表現ていうのがもっと詰まるといいなとは思ってて。何やっててもそうなんだけど、ただ漠然と音が流れていくんじゃなくて、音がちゃんと手から出されている、というふうにやりたいんだよね。俺はそういうの感動するから。

できあがった曲のギター・パートはミックスしたジュンさんや最終的な判断はカズトモくんがしたものだからできあがりに対して感想を持つのもある意味難しいか。作業もあっという間に終わったみたいだし。

ハヤシ…そうだね。まぁ、とりあえずできたものを聴いて笑った、という(笑)「すげぇのがキタ!」と思ったね。「マスタリング終わったよ」と音源が届いたときはとりあえず笑った。「なんちゅうことになってんだ」と。結構、予想外だったんだけど、セカンドも本当に限界まで音がつまってる感じのすごい爆音じゃん?でも今回、録ってる途中のものを聞かせてもらったら音が意外にクリアなの。もっとハイファイ。「前のアルバムのときもこういう感じだったの?」と聞くと「まぁ、そうかな」って話で。ジュンさんに確認してないけど、たぶん機材一式刷新とかはしてなくて、ノウハウを基に録られていると思うんだけど、前作ほど歪んではいないにせよ、ここまでブッ壊れた音に仕上がるとはね。こういう音像をカズトモははじめから描いていたんだなと思って。前のアルバムのときも確かカズトモが「マスタリングってすごいよ」と言ってたんだよね。で、今回「あぁこれか」と実感した次第です。

そんなに違う?

ハヤシ…まぁ、そこまで変わるわけでもないけど、何かこう、ひとつモヤが晴れるような感覚かな。ミックス中はもっと協力できることはなかったのかな、と逆に思うほどだったけどね。だって札幌でカズトモとジュンさんがすごい苦労してやってる中でこっちにいて何もできなかったから。それどころか「この曲はこうなりましたよ」て送られてくるものに対して好き勝手なこと言うことしかできないからさ。きっとそれを見て「何言ってやがんだ」て思ってたと思うんだ(笑)

ハヤシくんはいまいろんな若いバンドとも一緒にやっていて、かなりポジティヴに若い子たちとその音楽を受け入れているというか、認めているというか、楽しんでいるよね?

ハヤシ…それは200MPHを辞めて良かったことなんだよね。200MPHにいた頃はあまり他のバンドを観に行くこともなかったし、観に行っても先輩たちのバンドが多かったからさ。あと、あの頃は他のバンドとの窓口の人とか、音担当の人、みたいな役割分担がそれぞれあったけど、そういう役割がなくなると自然とそれを自分で補うようにできているみたいで、演奏を続けるためには足りないなりにも勝手に機能するみたい。quizkidで弾きだしたことが大きいけど、自然とコミュニケーション取り出したもんなぁ。

若い子たちが一生懸命やっているのを見るのが楽しい?それともやってることが本気でカッコいいと思う?自分は割と冷めた眼で見てしまうんです。「ああ、こういうバンドが好きなんだろうな。オジさん、そのバンドたちをもう自分の眼で見てきちゃってるよ」なんて調子で。

ハヤシ…両方かな。やってることでストレートに痺れるバンドも一杯いる。逆に「この人ナイスだな」と思ったらその人がやってる音楽も好きになるというケースもある。前はそれはなかったけど。今は自分が死ぬまでにあと何人くらいに会うんだろう?なんて思うと全然それでいいと思う。たぶんその人と音楽との距離に興味があるんだよね。いつもそれを見てる気がする。

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